
登山では、歩き続けるために思っている以上のエネルギーを消費します。
「お昼ごはんは持ってきたけれど、行動食は何をどれくらい持っていけばいいの?」
「お菓子をたくさん持っていったけれど、食べる量が分からない……」
そんな疑問を持ったことはありませんか?
行動食は、単なる「おやつ」ではありません。
登山中に不足してくるエネルギーを補い、最後まで安全に歩き続けるための大切な食料です。
特に長時間の登山では、食事の時間まで我慢してしまうと、急に力が出なくなってしまうことがあります。
いわゆるシャリバテですね。
そこで今回は、「登山の行動食はどれくらい必要?カロリーの目安の計算方法」というテーマで、登山中に必要なエネルギー量の考え方や、行動食を持っていくときの目安についてまとめてみたいと思います。
登山ではどれくらいカロリーを消費する?

まず気になるのが、登山では一体どれくらいのカロリーを消費するのかということ。
平地を歩くよりも、登山では大きな荷物を背負い、上り下りを繰り返しながら長時間歩くことになります。
そのため、普段の生活よりも消費するエネルギーはかなり多くなります。
もちろん、必要なエネルギー量は人によって違います。
体重が重い人ほど消費エネルギーは多くなりますし、歩く速度や標高差、荷物の重さ、気温、登山道の状態などによっても変わってきます。
例えば、同じ「5時間の登山」でも、
- ゆるやかな登山道をゆっくり歩く
- 急登が連続する山を歩く
- 重いザックを背負って歩く
- 岩場や鎖場を通過する
- 雪道を歩く
といった条件では、身体にかかる負荷が全く違います。
そのため、「登山なら○時間で必ず○kcal」というように、一律の数字で考えることはできません。
とはいえ、登山計画を立てるときには、ある程度の目安があると便利ですよね。
登山の消費カロリーを計算する基本の考え方

登山中の消費エネルギーを考えるときに、ひとつの目安として使えるのがMETs(メッツ)です。
METsとは、安静にしている状態を1としたときに、その活動が何倍のエネルギーを消費するかを表したもの。
例えば、座って安静にしている状態が1METだとすると、歩行や登山など運動強度の高い活動ほどMETsの数字が大きくなります。
消費カロリーの概算には、次のような計算式が使われます。
消費カロリー(kcal)=METs × 体重(kg)× 時間(h)× 1.05
例えば、体重60kgの人が、平均して6METs程度の運動強度で5時間歩いたとすると、
6 × 60kg × 5時間 × 1.05 = 1,890kcal
となります。
あくまで概算ですが、「5時間の登山で約1,900kcal」というイメージです。
ただし、ここで注意したいのが、この数字をそのまま「行動食として1,900kcal持っていけばいい」と考えないこと。
登山中の消費カロリーと、登山中に食べるべきカロリーは同じではありません。
「消費カロリー=必要な行動食」ではない
登山で1,500kcal消費するからといって、1,500kcal分の行動食を食べなければならないわけではありません。
なぜなら、私たちの身体にはもともとエネルギーを蓄えているからです。
食事から摂取した糖質はグリコーゲンとして蓄えられますし、脂肪も重要なエネルギー源になります。
そのため、登山中に消費したエネルギーをすべてその場で食べて補う必要はありません。
では、なぜ行動食が必要なのでしょうか?
大きな理由のひとつが、長時間の運動によるエネルギー不足を防ぐことです。
特に登山では、長時間にわたって身体を動かし続けることになります。
その間、何も食べずに歩き続けていると、身体に蓄えられているエネルギーが少しずつ減っていきます。
そして、エネルギー不足が進むと、
- 足が重くなる
- 疲れやすくなる
- 集中力が低下する
- 判断力が鈍る
- 歩くペースが落ちる
- 強い空腹を感じる
といった状態につながります。
さらにひどくなると、「もう一歩も歩けない」という状態に陥ってしまうことも。
登山では下山するまでが山行なので、最後まで歩き続けられるように、途中でこまめにエネルギーを補給することが大切なんですね。
行動食のカロリーは「1時間あたり」で考えると分かりやすい
では、実際にどれくらいの行動食を持っていけばいいのでしょうか?
ひとつの考え方として、登山中に1時間あたりどれくらいのエネルギーを補給するかを基準にすると計画しやすくなります。
一般的な登山では、行動食として1時間あたり200~300kcal程度をひとつの目安にしてみるとよいでしょう。
例えば、休憩を含めて6時間行動する登山なら、
200~300kcal × 6時間 = 1,200~1,800kcal
がひとつの目安になります。
ただし、これは「6時間で必ず1,800kcal食べる」という意味ではありません。
朝食や昼食などの食事から摂取するエネルギーもありますし、登山者の体格や運動強度によって必要量も変わります。
また、実際にどれくらい食べられるかという問題もあります。
疲れてくると、固形物が食べづらくなったり、甘いものばかりでは飽きてしまったりすることもありますよね。
そのため、
「必要カロリーを計算する」→「食べられる形に分ける」
という考え方がおすすめです。
登山時間が長くなるほど行動食は多めに

当然ですが、登山時間が長くなるほど必要な行動食も増えていきます。
例えば、日帰り登山で3時間程度の行動なら、昼食をしっかり食べることで、行動食はそれほど大量に必要ない場合もあります。
一方、6~8時間以上のロングコースになると話は変わります。
長時間歩く場合は、朝食を食べたあと、昼食まで何時間も歩き続けることになります。
さらに昼食後も下山まで数時間歩くことになります。
そのため、行動食を「お腹が空いたら食べるもの」と考えるのではなく、登山中に定期的にエネルギーを補給するものと考えるのがおすすめです。
例えば、
- 登山開始から1時間程度で最初の補給
- その後も1~2時間おきに補給
- 昼食とは別に行動食を用意
- 下山前にもエネルギーを補給
というように、あらかじめ食べるタイミングを決めておくと、「気づいたら何時間も何も食べていなかった」ということを防ぎやすくなります。
「シャリバテ」になってからでは遅い?
登山でよく聞く言葉に「シャリバテ」があります。
「シャリ」はご飯、「バテ」は疲れること。
つまり、エネルギー不足によって身体が動かなくなってしまう状態のことです。
シャリバテの怖いところは、突然やってくるように感じること。
「さっきまで普通に歩けていたのに、急に足が動かなくなった……」
という経験をする人もいます。
そのため、行動食はお腹が空いてから食べるのではなく、お腹が空く前に食べるのがポイント。
特に登りでは、身体が多くのエネルギーを使います。
「まだ大丈夫」と思っていても、少しずつ補給しておくことで後半の失速を防ぎやすくなります。
登山では「空腹になってから食べる」のではなく、「空腹にならないように食べる」。
この意識がとても大切です。
行動食は何を食べればいい?

行動食というと、チョコレートやクッキー、ナッツなどを思い浮かべますよね。
実際、これらは登山にとても使いやすい食品です。
ただ、行動食を選ぶときは、カロリーだけでなく、
- 持ち運びやすい
- 食べやすい
- 暑さや寒さに強い
- 胃に負担がかかりにくい
- 自分が好きな味
- 少量でエネルギーを補給できる
といった点も考えておくとよいでしょう。
チョコレート
高カロリーで、少量でもエネルギーを補給しやすいのがチョコレート。
甘いものが好きな人なら、登山中の楽しみにもなりますよね。
ただし、夏場は溶けてしまいやすいのが難点。
気温が高い時期には、チョコレート以外の行動食も組み合わせておくと安心です。
ナッツ
ナッツ類は、脂質を含むためエネルギー密度が高く、腹持ちも期待できます。
甘いものが苦手な人にもおすすめ。
ただし、ナッツだけを大量に食べるのではなく、糖質を補給できる食品と組み合わせると、よりバランスよく行動食を用意できます。
羊羹
登山の定番行動食として人気なのが羊羹。
小さくて軽く、糖質を補給しやすく、個包装タイプならザックのポケットにも入れやすいですよね。
水分が少なくても食べやすいタイプや、片手で開けられる商品もあるので、行動中の補給にも便利です。
エネルギーバー・栄養補助食品
「カロリーを計算して行動食を準備したい」という人には、エネルギーバーや栄養補助食品も便利。
パッケージにエネルギー量が表示されているので、必要なカロリーを計算しやすいのがメリットです。
「1本200kcalだから、6時間なら3~6本持っていく」といったように、計画を立てやすくなります。
おにぎり・パン
おにぎりやパンも、立派な行動食になります。
特に朝食と昼食の間など、しっかりエネルギーを補給したいときには便利。
ただし、気温が高い季節は食品が傷みやすくなるため、持ち運びや保存方法には注意が必要です。
ドライフルーツ
ドライフルーツは軽量で、糖質を補給しやすい行動食。
果物の甘さがあるので、疲れているときにも食べやすいですよね。
ナッツと組み合わせれば、甘いものと塩気のあるものを一緒に食べられるので、飽きにくい行動食になります。
行動食は「甘いもの+しょっぱいもの」で飽きにくくする

行動食を準備するときに意外と重要なのが、味のバリエーションです。
最初は「チョコレートだけで十分!」と思っていても、何時間も歩いていると甘いものばかりでは飽きてしまうことがあります。
そこでおすすめなのが、
甘いもの+しょっぱいもの
の組み合わせ。
例えば、
- 羊羹+塩味のクラッカー
- チョコレート+ナッツ
- ドライフルーツ+ミックスナッツ
- エネルギーバー+せんべい
- パン+ジャム
など。
登山中に「何か食べたいけれど、持ってきたものはどれも食べたくない……」となると、せっかく用意した行動食が余ってしまいます。
自分が「疲れたときに食べたいもの」をいくつか用意しておくのがおすすめです。
水分と一緒に考えることも大切
行動食について考えるとき、忘れてはいけないのが水分補給です。
登山では汗をかくため、水分もどんどん失われます。
特に夏場は、気温が高くなくても長時間歩くことで汗をかきますし、標高の高い場所では風によって汗が乾きやすく、自分が思っている以上に水分を失っていることがあります。
水分が不足すると、疲労感が強くなったり、集中力が低下したりすることもあります。
行動食だけをしっかり準備するのではなく、
「食べるもの」と「飲むもの」をセットで考える
ことが大切です。
また、汗を大量にかく時期には、水分だけでなく電解質の補給も意識しておきたいところ。
スポーツドリンクや経口補水液などを利用する方法もありますが、状況に応じて選ぶようにしましょう。
登山の行動食カロリー計算を実際にやってみる
では、実際に行動食の量を計算してみましょう。
例えば、
- 体重60kg
- 日帰り登山
- 行動時間6時間
- 中程度の運動強度
というケースを考えます。
先ほど紹介したMETsの計算式を使って、仮に6METsとして計算すると、
6 × 60kg × 6時間 × 1.05 = 2,268kcal
となります。
ただし、これはあくまで活動による消費エネルギーの概算です。
この2,268kcalをすべて行動食で補う必要はありません。
朝食や昼食、身体に蓄えられているエネルギーなどもあります。
そこで、行動食として1時間あたり200~300kcal程度をひとつの目安にすると、
200~300kcal × 6時間 = 1,200~1,800kcal
程度。
ただし、昼食をしっかり食べる予定なら、その分は行動食から差し引いて考えることができます。
例えば昼食で500~600kcal程度を摂る予定なら、行動食はその残りを補うイメージ。
このように、
①登山時間を確認する
②消費エネルギーを概算する
③朝食・昼食などの食事量を考える
④不足しそうな分を行動食で補う
という順番で考えると、必要量をイメージしやすくなります。
「必要なカロリー」より「実際に食べられる量」も重要
ここまでカロリーの計算方法を紹介してきましたが、実際の登山では、数字だけを追いかけすぎないことも大切です。
なぜなら、登山中は思ったほど食べられないことがあるから。
登りで息が上がっているときに、パサパサしたパンを大量に食べるのはなかなか大変です。
疲労がたまってくると、胃腸の調子が悪くなったり、甘いものばかり欲しくなったりすることもあります。
だからこそ、事前にいろいろな行動食を試しておくことが大切。
普段のハイキングなどで、
「これは食べやすい」
「これは喉が渇く」
「これは暑いと溶ける」
「これは後半でも食べられる」
といった自分なりのデータを集めておくと、ロングコースに行くときにも役立ちます。
登山の行動食は、カロリー計算だけではなく、自分の身体が受け付けるかどうかも大事なんですね。
行動食は「余るくらい」が安心
では、計算したカロリー分だけぴったり持っていけばいいのかというと、そうでもありません。
登山では、
- 予定より歩くペースが遅くなる
- 道迷いで時間を消費する
- 天候悪化で予定を変更する
- 同行者の体調不良で行動時間が延びる
- 登山道の状態によって想定以上に体力を使う
など、予定外のことが起こる可能性があります。
そのため、行動食は計算した必要量ぴったりではなく、ある程度の予備を持っていくのがおすすめ。
特に、予定より下山が遅れた場合に備えて、すぐ食べられるものを余分に用意しておくと安心です。
「余ったらどうしよう?」と思うかもしれませんが、余った行動食は次の登山に持っていけばいいだけ。
それよりも、足りなくなってしまうほうが困ります。
日帰り登山とロングコースでは行動食を変える

すべての登山で同じ量の行動食を持っていく必要はありません。
例えば、2~3時間程度の短いハイキングなら、水分とちょっとしたおやつだけでも十分な場合があります。
一方で、6時間、8時間、10時間と行動時間が長くなるにつれて、行動食の重要性は高くなります。
特にロングコースでは、
「昼食を食べれば大丈夫」
ではなく、昼食以外にもこまめにエネルギーを補給する計画を立てておきたいですね。
また、標高差が大きいコースや急登が続くコースでは、同じ時間でも身体への負担が大きくなります。
「8時間歩くから、8時間分の行動食」という単純な考え方ではなく、
登山時間+コースの負荷+自分の体格や体力
を合わせて考えることが大切です。
行動食は「食べるタイミング」も計画しておこう
行動食を持っていくだけではなく、「いつ食べるか」まで決めておくと、さらに安心です。
例えば6時間の登山なら、
- 出発後1時間程度で最初の補給
- その後1~2時間おきに補給
- 昼食とは別に行動食を補給
- 下山前にもエネルギーを補給
というように、あらかじめ予定を立てておきます。
もちろん、登山中の体調や空腹感に合わせて調整してOK。
大切なのは、「お腹が空いてから慌てて食べる」のではなく、エネルギー切れになる前に少しずつ補給することです。
休憩するたびに少し食べるようにしておけば、行動食を食べること自体が登山中の楽しみにもなりますよね。
登山の行動食カロリー計算は「目安」として使おう
ここまで見てきたように、登山の行動食を考えるときには、まず自分の登山にどれくらいのエネルギーが必要なのかを大まかに把握することが大切です。
消費カロリーは、
METs × 体重(kg)× 運動時間(h)× 1.05
という計算式をひとつの目安にできます。
そして、行動食については、
1時間あたり200~300kcal程度
をひとつの目安として、登山時間や昼食の内容、自分の体格や運動強度に合わせて調整していきます。
ただし、これはあくまで目安。
同じ山でも、体力や歩くペースによって必要なエネルギー量は変わりますし、暑さや寒さ、荷物の重さなどによっても身体への負担は変わります。
最初は少し多めに持っていき、実際にどのくらい食べたのかを記録してみると、自分に必要な量がだんだん分かってきます。
「このコースならこのくらい」
「5時間ならこのくらい」
「暑い日はこれくらい水分が必要」
という自分なりの基準ができてくると、山行計画もどんどん立てやすくなりますよ。
行動食は「安全に下山するための装備」のひとつ
行動食というと、どうしても「登山中のおやつ」というイメージがあります。
でも、長時間の登山では、行動食は安全に下山するための重要な装備のひとつ。
エネルギー不足になれば、体力だけではなく集中力や判断力にも影響します。
疲れた状態で岩場や急斜面を歩くことになれば、転倒などのリスクも高まります。
だからこそ、「お腹が空いたから食べる」のではなく、「最後まで安全に歩くために計画的に食べる」と考えておきたいですね。
そして、行動食は「カロリーが高ければ何でもいい」というわけでもありません。
自分が食べやすいもの、好きなもの、暑さや寒さに耐えられるもの、持ち運びやすいものを組み合わせて、自分だけの行動食セットを作ってみるのも楽しいですよ!
まとめ
登山の行動食は、登山時間やコースの難易度、体重、歩くペースなどによって必要量が変わります。
まずは、
①登山の行動時間を確認する
②METsなどを使って消費エネルギーを大まかに計算する
③朝食・昼食などから摂取できるエネルギーを考える
④不足する分を行動食で補う
⑤1時間あたり200~300kcal程度をひとつの目安にする
という流れで考えてみると分かりやすいでしょう。
そして、行動食はお腹が空いてからではなく、空腹になる前にこまめに食べること。
甘いものだけ、しょっぱいものだけに偏らないように、いろいろな種類を組み合わせておくと、長時間の登山でも飽きずに食べやすくなります。
何より大切なのは、計算した数字を絶対視することではなく、実際の登山で「自分はどのくらい食べると調子がいいのか」を知っていくこと。
最初は余るくらい持っていって、食べた量や余った量を記録しておけば、次の山行ではさらに自分に合った行動食を準備できるようになります。
山頂で食べるごはんももちろん楽しみですが、歩きながらちょこちょこ食べる行動食も、登山の楽しみのひとつ。
「次は何を持っていこうかな?」と考えるところから、山登りは始まっているのかもしれませんね!

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