
アルコールを飲みながら山に登る人はいないでしょうが、山小屋やテントに泊まる場合など、山で飲むビールやお酒を楽しみに山頂を目指す人は少なからずいるでしょう。
山小屋に到着して、汗をかいたウェアを着替えて、夕食を食べながら冷えたビールを一杯……。
テント泊なら、テントを設営したあとに山の景色を眺めながらお酒を楽しむ……。
想像するだけで、なんだか最高の時間ですよね。
わたしは普段全くアルコールの類は飲まないのですが、山小屋などの非日常的な空間でビールやお酒を飲むということに憧れのようなものはあります。
アルコールが好きな人にとっては、おそらく至福のひとときなんだろうなーと想像もできます。
ですが、高山でのアルコールは危険なんですよね・・・
特に、登山では平地とは違って、長時間歩いたあとの疲労や脱水、睡眠環境の変化などが重なります。
そこへアルコールが加わると、普段ならそれほど気にならない影響が大きく出てしまうことがあります。
高所では、標高が上がるほど空気中の酸素が少なくなるため、高山病にも注意が必要です。
CDCも、標高8,000フィート(約2,400m)以上に到達した最初の48時間は、アルコールを避けるよう勧めています。([CDC][1])
その理由について、詳しくみていきましょう。
アルコールで脱水症状に?
山登りで大量の汗をかいた後は、多少なりとも脱水気味の状態になっているもの。
なので、登山後は十分な水分補給が必要なんですよね。

そこで、水分補給のつもりでビールやお酒を飲んでしまうのは大きな間違い!
アルコールには利尿作用があるため、アルコールを含む飲み物は水分補給の代わりにはなりません。
登山で汗をかいてすでに水分が不足しているところにアルコールを摂取すると、脱水を悪化させる可能性があります。
特に夏山では要注意。
暑い中を長時間歩いたあと、冷たいビールが目の前にあったら、ついつい「水分補給!」と思ってしまいそうですが、まず必要なのは水や電解質を含む飲み物などによる適切な水分補給です。
CDCも、暑い環境での活動ではアルコールではなく、水などのノンアルコール飲料で水分を補給するよう案内しています。([CDC][2])
また、脱水すると、
- 口が渇く
- 尿の量が減る
- 頭痛がする
- だるさを感じる
- めまいやふらつきが出る
といった症状が出ることがあります。
これらは登山中の疲労でも起こり得るため、「ただ疲れているだけ」と思ってしまうことも。
その状態でさらにアルコールを飲んでしまうと、体調の悪化に気づきにくくなる可能性もあります。
なので、山小屋やテント場に到着したら、まずはビールではなく水分補給!
十分に水分をとって、身体を落ち着かせてから、アルコールを飲むかどうかを考えるくらいがよさそうですね。
アルコールで疲労が翌日に残る?

登山では、朝早くから長時間歩き続けることになります。
特に縦走やテント泊では、普段よりも身体に負担がかかっている状態で、翌日もまた長時間歩くことになりますよね。
そんなときに気をつけたいのが、アルコールによる睡眠への影響です。
「お酒を飲むと眠くなるから、よく眠れるのでは?」
と思う人もいるかもしれません。
確かに、お酒を飲むと眠気を感じることがありますが、「眠くなること」と「質のよい睡眠がとれること」は同じではありません。
山小屋では、もともと普段とは違う環境で寝ることになります。
周囲の人の物音や明かり、寝床の違いなどで、ただでさえ眠りにくいことも。
さらに高所では、睡眠が浅くなったり、眠りが不安定になったりすることがあります。
そこへアルコールが加われば、翌朝に「なんだかスッキリしない……」という状態になってしまう可能性も。
せっかく山まで来たのだから、翌日も元気に歩きたいですよね。
特にテント泊や縦走では、「今日の一杯」より「明日のコンディション」を優先することも大切です。
アルコールでエネルギー不足に?

アルコールの消化にエネルギーが使われることで、山登りの疲労を翌朝に残してしまうことも考えられます。
また、エネルギー代謝を助ける重要な栄養素、ビタミンB群の吸収がアルコールによって阻害されるのも問題。
ビタミンB群が失われると、エネルギーを作り出すことができなくなってしまうからです。
ただ、登山で考えたいのは「アルコールを飲んだからエネルギー不足になる」という単純な話だけではありません。
登山では、長時間歩くことで大量のエネルギーを消費します。
そのため、夕食ではご飯や麺類などの炭水化物、肉や魚などのたんぱく質、野菜などをバランスよく食べて、翌日の活動に備えることが大切です。
ところが、お酒を飲むことが目的になってしまうと、食事よりもアルコールが中心になってしまうことがあります。
「ビールを飲んで、おつまみをちょっと食べただけ」
という状態では、翌日の登山に必要な栄養を十分にとれていない可能性も。
特に縦走の場合は、翌日の行動時間やコースの難易度まで考えて、夕食をしっかりとることが大切ですね。
そして、アルコールには食欲を刺激する一面もあるので、飲みすぎて食べすぎるということも。
山では食材も水も限られているので、飲酒のために食事がおろそかにならないようにしたいところです。
アルコールで高山病に?
標高の高い高山でアルコールを摂取すると、平地にいるときよりも酔いが回りやすくなります。
それから、高所では、アルコールの影響で呼吸が抑制されるため、高山病になりやすいとか。
高山病(急性高山病)は、標高が高くなって酸素の少ない環境に身体が十分に順応できないことで起こります。
代表的な症状として、頭痛、疲労感、食欲低下、吐き気、嘔吐などがあります。([CDC][1])
ここで怖いのが、アルコールによる酔いの症状と高山病の症状が似ていること。
頭痛や吐き気、ふらつきなど、お酒に酔ったときの症状は、急性高山病の症状と共通しています。
「ちょっと飲みすぎたかな?」
と思っていたら、実は高山病の症状だった……という可能性も考えられるわけですね。
高所で酔いが回りやすいのは、アルコール単独の“酔い”だけではなく、アルコール摂取が原因で高度障害の症状が出ている可能性も考えられます。
“酔い”が高山病の症状を分かりにくくしてしまうこともあるので、平地にいるときのペースで飲むのはNG。
普段よりも慎重に考えるべきでしょう。
そもそも、高山病は「体力がある人なら大丈夫」というものではありません。
これまで高山病になったことがない人でも、標高や上昇速度などの条件によって発症する可能性があります。([CDC][1])
そのため、高所へ行くときはアルコールだけでなく、標高を急激に上げないことや、体調に異変があればそれ以上高度を上げないことも重要です。
高山病の症状が出たら、お酒よりも下山を優先

高山でお酒を飲んでいて、
- 強い頭痛がする
- 吐き気がある
- 強い疲労感がある
- ふらつく
- ぼーっとする
- 息苦しさがある
といった症状が出た場合には、「飲みすぎたかな?」と自己判断しないことも大切です。
特に、休んでいても症状が悪化する場合や、意識がもうろうとする、歩行がおかしい、強い息苦しさがあるといった場合には、重症の高所障害の可能性があります。
CDCによると、高所で混乱や協調運動の低下などがみられる高地脳浮腫(HACE)や、息切れ・咳・強い脱力などを伴う高地肺水腫(HAPE)は緊急性が高く、直ちに低い場所へ移動する必要があります。([CDC][1])
なので、「せっかく山小屋まで来たんだから、もう一杯!」ではなく、少しでもおかしいと思ったら飲酒をやめて、身体の状態を確認すること。
山頂や山小屋にいることよりも、無事に下山することのほうがずっと大切です。
テント泊では「寝る前の一杯」にも注意
テント泊の場合、夕食後にテントの中でお酒を飲むという楽しみ方もありますよね。
山の中で飲むお酒は、普段とは違う特別感があります。
でも、テント泊の場合は特に「このあとすぐ寝る」という状況になりやすいので、飲みすぎには注意したいところ。
テントの中では、山小屋のようにすぐに誰かに助けを求められるとは限りません。
また、夜中にトイレへ行くためにテントの外へ出る場合もあります。
暗闇の中を歩くことになるので、飲酒によって判断力やバランス感覚が低下している状態はできるだけ避けたいもの。
ヘッドライトをつけていても、石や木の根などでつまずく可能性はあります。
せっかくのテント泊だからこそ、お酒を楽しむ場合も「翌朝まで含めて安全に過ごせる量」を意識したいですね。
「山で飲むなら少量」が基本

ここまで見てくると、高山でのアルコールはできるだけ避けたほうが安心だということが分かります。
とはいえ、山小屋やテント場で飲むビールを楽しみにしている人にとっては、「絶対に飲んではいけないの?」と思ってしまいますよね。
もちろん、標高や体調、登山計画などによって状況は変わりますが、少なくとも「平地と同じ感覚で飲まない」ことが大切。
特に高所へ到着したばかりのときや、頭痛・吐き気など高山病を疑う症状があるときは、飲酒を避けるほうが安全です。
CDCも、高所に到着した直後の少なくとも48時間はアルコールを避けることを勧めています。([CDC][1])
また、飲む場合でも、
- まず水分補給をする
- 食事をしっかりとる
- 少量にとどめる
- 短時間で一気に飲まない
- 翌日の行動に影響しないようにする
- 体調に異変があれば飲まない
といったことを意識したいですね。
以上のことから、高山でのビールやお酒はできるだけ控えるのが無難だと言えます。
登山後の身体は、長時間歩いたことで疲れていて、水分もエネルギーも消費しています。
そこにアルコールを加えると、脱水や睡眠、体調管理などの面でマイナスになる可能性があります。
特に高所では、高山病の症状と酔いの症状が似ているため、「酔っているだけ」と思い込んでしまうことも怖いところ。
飲むとしても少量にとどめておいたほうがいいかもしれませんね!
そして、個人的には「山で飲む一杯を最高の一杯にするためにも、まずは安全第一」がいいのではないかなと思います。
山小屋に着いたら、まず水分補給。
夕食をしっかり食べて、体調を確認。
翌日の山行にも支障がないようにして、それでも楽しめそうなら少量をいただく。
そんなくらいの慎重さが、高山でのお酒にはちょうどいいのかもしれません。
山で飲むビールやお酒は、たしかに憧れますが、何よりも大切なのは無事に登って、無事に下山すること。
「山でのお酒は、平地よりも慎重に」。
これを忘れずに、山小屋やテント場での時間を楽しみたいですね!

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