
出典:『ワンダーフォーゲル 2017年10月号』
山登りで利用する地図には、“登山地図”と“地形図”の2つがあります。
登山地図としてよく知られている、旺文社の『山と高原地図』は、主要山岳エリアを対象に、登山道や山小屋、水場、コースタイムなど、登山に役立つ情報が分かりやすくまとめられているのが特徴。
一方、国土地理院が整備する地形図は全国をカバーしていて、メジャーな山だけでなく、地元の里山やあまり知られていない山域を歩くときにも利用できます。
登山地図と地形図、それぞれにメリット・デメリットがあるので、状況に合わせて両方の地図を上手に活用していく必要があります。
しかも、地図は「道を探すため」だけに使うものではありません。
どれくらい急な道なのか、どこで尾根から谷へ移るのか、現在地はどこなのか、予定しているルートから外れていないかなど、山の中で自分が置かれている状況を把握するためにも欠かせない道具です。
スマートフォンの地図アプリが普及した現在でも、紙の地図を携行し、地図とコンパスを使って周囲の地形を確認する技術を身につけておくことは、道迷いへの備えとして大切です。
今回は、登山地図と地形図の違いや特徴、これらの地図の入手方法について見ていきます。
山登りの地図、どんな地図を選べばいい?
おすすめされているのは、登山地図と地形図の両方を使うこと。
山登りの際にはなるべく荷物を少なくしたいので、見慣れた登山地図の『山と高原地図』だけでいいのでは?と思ってしまいますが、登山に慣れた人ほど、目的や状況に応じて地図を使い分けています。
なぜなら、登山地図と地形図にはそれぞれメリット・デメリットがあって、両方の地図を使うことでお互いの欠点を補い合えるからなんです。
たとえば、
「初めて歩く人気の登山コース」
なら、登山道や山小屋、コースタイムなどの情報が豊富な登山地図が便利。
一方、
「登山道が複雑な山域」
「バリエーションの多いルート」
「地形を細かく読みながら歩きたい場所」
では、等高線から地形を読み取れる地形図が大きな力を発揮します。
さらに、登山地図は「登山者向けに編集された情報」、地形図は「地形や地物を正確に読み取るための基本的な情報」と考えると、それぞれの役割が分かりやすいでしょう。
では、それぞれの地図にはどんなメリット・デメリットがあるのでしょう?
あわせて、地図の入手方法についてもまとめておきますね。
登山地図のメリット・デメリット

登山地図には、山小屋や水場の場所、コースタイムなどが記されているので、ガイドブックとしての役割や山行計画が立てやすいというメリットがあります。
一般的な道路地図や地形図と比べると、「登山者が実際に山を歩くときに知りたい情報」が整理されているのが大きな特徴です。
登山口や駐車場、バス停、山小屋、避難小屋、水場、危険箇所などを確認できるため、登山計画を立てる段階でも非常に便利。
一方、登山地図は登山者に必要な情報を分かりやすく掲載するため、地形そのものの情報が簡略化されている場合があります。
また、登山地図の縮尺は地図によって異なりますが、広い山域を一枚で見渡せるように作られているものが多く、地形図に比べると細かな地形を読み取りにくいことがあります。
そのため、道迷いをしてしまったときなどに、尾根や沢、ピーク、鞍部などの細かな地形を確認したい場合には、地形図のほうが有利なことがあります。
登山地図のメリット- 登山道が見やすい
- 標準コースタイムが分かる
- 水場が分かる
- 道迷いしやすい場所や目印になる場所が分かる
- 危険箇所や難所に注記がある
- 駐車場やバス停などの情報がある
- 山小屋や避難小屋の情報を確認できる
- 登山口までのアクセス情報を確認しやすい
- 広いエリアを一枚で確認しやすい
- 登山計画を立てる際に使いやすい
- 防水紙を採用した商品も多く、山で扱いやすい
登山地図のデメリット
- 文字や施設情報などが多く、地形そのものが読みづらい場合がある
- 対象となる山域が限られる
- 細かな尾根や沢などの地形を読み取るには不向きな場合がある
- 登山道が掲載されていても、現地の状況が変化している場合がある
ここで注意したいのが、「地図に登山道が載っている=現在も必ず通れる」というわけではないということ。
登山道は、大雨や土砂崩れ、落石、倒木、雪崩、工事などによって状況が変化します。
そのため、登山地図を持っているから安心なのではなく、出発前に自治体や山小屋、登山道管理者などから最新の情報を確認することも重要です。
登山地図の代表格『山と高原地図』
登山地図と聞いて、多くの登山者が思い浮かべるのが、昭文社の『山と高原地図』です。
広い山域を一枚の地図で把握できるうえ、登山道、コースタイム、山小屋、水場、危険箇所、登山口など、山行計画を立てるための情報がまとめられています。
紙の地図ならではのメリットは、広げた状態で山域全体を一度に見渡せること。
「登山口から山頂までどれくらい距離があるのか」だけでなく、
「隣の尾根はどこにあるのか」
「別ルートへ逃げることはできるのか」
「山頂の先にはどんな地形が続いているのか」
といったことも直感的に確認できます。
スマートフォンの画面では、表示範囲を拡大・縮小しながら見る必要がありますが、紙の地図なら山域全体を広げて眺められるので、山行全体のイメージをつかむのにも向いています。
ただし、紙の登山地図だけに頼るのではなく、登山前に地図に記載された情報の対象時期や更新状況を確認し、登山道の通行状況などは別途確認するのがおすすめです。
登山地図の入手方法
登山地図は、大型書店やアウトドアショップの書籍コーナーに置かれていることが多いですね。
ただ、近くの山岳エリアや人気のある山岳エリアに限定して置かれている場合があるので、ほしい山岳エリアが見つからないことも。
事前に確認してから出向くか、ネットで購入するのがおすすめです。
また、紙の地図だけでなく、現在はスマートフォンやパソコンで登山地図を確認できるサービスも充実しています。
登山アプリでは、自分で歩きたいルートを作成したり、距離や標高差を確認したり、過去の登山記録と比較したりできるものもあります。
ただし、スマートフォンはバッテリー切れや故障、落下などの可能性があります。
そのため、特に山奥や長時間の登山では、デジタル地図を使いつつも、紙の地図とコンパスを予備として持っておくと安心です。
地形図のメリット・デメリット

一方、地形図は、登山道だけでなく、地形そのものを読み取るための地図です。
国土地理院の2万5千分1地形図は、全国をカバーする基本的な地図のひとつで、土地の高低や起伏、水系、土地利用、集落、道路、鉄道、建造物などが表示されています。
地形図の大きな特徴は、等高線によって地形の起伏を読み取れること。
等高線とは、同じ高さの地点を結んだ線のことです。
線と線の間隔が狭ければ急斜面、広ければ比較的なだらかな斜面と判断できるため、実際に山へ入る前に「この先は急登になりそう」「ここは尾根が細くなっている」といった地形をイメージできます。
地形図を読み慣れてくると、単に登山道を追うだけではなく、
「尾根」
「谷」
「ピーク」
「鞍部」
「沢」
「斜面」
「急傾斜地」
など、山そのものの形を読み取れるようになります。
そのため、道迷いを防ぐための読図だけでなく、登山計画を立てる段階で地形を理解するためにも役立ちます。
特に登山道が複雑な場所では、地図上のルートだけを見るのではなく、周辺の尾根や沢の位置関係まで確認しておくと、実際に歩いたときの現在地確認がしやすくなります。
ただし、情報がシンプルゆえ、地図読みにある程度の習熟が必要になってくるというデメリットがあります。
地形図のメリット- 情報がシンプルで地形を読み取りやすい
- 等高線から斜面の傾斜や地形の起伏を確認できる
- 細かな尾根や沢などの地形を読み取れる
- 道迷いしたときの現在地確認に役立つ
- 登山道だけでなく周囲の地形も確認できる
- 人気の山だけでなく全国の地域をカバーしている
- 登山以外にも防災や地域調査など幅広い用途で使われている
- 使いこなすには読図の知識が必要になる
- 登山道、山小屋、水場、コースタイムなどの登山者向け情報が少ない
- 地図記号や等高線を理解する必要がある
- 紙の地形図は、更新時期によって現地の状況と差が生じる場合がある
地形図は「等高線」を読むのがポイント
地形図を使うなら、まず覚えておきたいのが等高線です。
等高線を見ることで、山の斜面が急なのか緩やかなのか、尾根なのか谷なのかをイメージできます。
たとえば、等高線がギュッと密集している場所は、短い距離で標高が大きく変化するため急斜面である可能性が高くなります。
反対に、等高線の間隔が広い場所は、比較的なだらかな地形と考えられます。
また、等高線の形から尾根と谷を読み取ることもできます。
地図上で等高線が山頂方向へV字型に入り込んでいる場所などは、地形の特徴を読み取る重要な手がかりになります。
こうした読み方を身につけると、登山道がなくても、
「この先には尾根がある」
「谷が深くなっている」
「この斜面はかなり急だ」
など、地図から立体的な山の姿を想像できるようになります。
さらに、地図と実際の景色を見比べる習慣をつけると、読図の練習になります。
「目の前に見えているピークは地図上のどこなのか?」
「今歩いている尾根はどの尾根なのか?」
と確認することで、現在地を把握する力も身についてきます。
地形図は古い?情報の更新にも注意
地形図についてよく聞くのが、「地形図は古い情報なのでは?」という疑問。
実際、紙の地形図は印刷された時点の情報なので、道路や建物などがその後変化している可能性があります。
国土地理院では現在、デジタルデータを中心とした電子国土基本図を整備しており、その情報は「地理院地図」などで利用できます。電子国土基本図は道路や建物などの変化を反映するための更新も行われています。
一方、紙の2万5千分1地形図は、電子国土基本図などをもとに作成されますが、印刷図として発行されるまでにはタイムラグが生じる場合があります。
つまり、紙の地形図だから必ず古い、デジタルだから必ず最新、という単純な話ではありません。
地図を使うときには、地図そのものの更新情報と、登山道の通行状況などの現地情報を分けて考えることが大切です。
特に登山道の崩落、通行止め、橋の流失、山小屋の営業状況などは、地形図では分からないことがあります。
そのため、登山前には地形図・登山地図だけでなく、自治体、警察、山小屋、登山道管理者などが発信する情報も確認しておきましょう。
地形図の入手方法
地形図は、大型書店やアウトドアショップの一部でも販売されていますが、日本地図センターを利用するのが確実です。
また、国土地理院の「地理院地図」では、オンラインで地図を閲覧できます。
地理院地図では、標準地図や淡色地図などを表示できるほか、地形を確認するためのさまざまな情報を重ねて表示できます。
国土地理院では、2万5千分1地形図相当の範囲を地理院地図から印刷して利用する方法も案内しています。
さらに、国土地理院では電子地形図25000などのオンライン提供も行っています。
紙の地形図だけでなく、デジタル形式の地図を利用できるようになっているので、用途に合わせて選ぶことができます。
登山地図と地形図、結局どちらがいい?
ここまで読んで、「結局、登山にはどちらの地図を持っていけばいいの?」と思った方もいるでしょう。
答えは、できれば両方を使い分けるです。
登山地図は、
「どこを歩けばいいのか」
を把握するのに便利。
地形図は、
「そこがどんな地形なのか」
を把握するのに便利。
たとえば登山計画を立てるときは、まず登山地図で登山道、山小屋、水場、コースタイムなどを確認します。
そのうえで地形図を見て、
「この登山道は尾根を歩くのか?」
「急登はどこにあるのか?」
「途中に大きな沢があるのか?」
「道を外した場合、周囲にはどんな地形があるのか?」
などを確認すると、より具体的な山行をイメージできます。
そして実際の登山では、登山地図をメインに使いながら、地形図を補助として持っておくという方法もあります。
スマートフォンの地図だけでも大丈夫?

現在は、スマートフォンの登山アプリを利用する人も増えています。
GPSを使って現在地を確認できたり、歩いた軌跡を記録できたりするため、登山初心者にとっても非常に便利です。
ただし、スマートフォンのGPS地図があるから紙の地図はいらないとは考えないほうがよいでしょう。
スマートフォンには、
・バッテリー切れ
・故障
・落下
・水濡れ
・低温によるバッテリー性能低下
・通信環境の問題
・アプリや地図データの不具合
などのリスクがあります。
GPSは現在地確認に非常に便利ですが、「現在地が分かること」と「地形を理解できること」は別です。
地図を読む力があれば、GPSが使えない状況でも、周囲の地形や方位などから現在地を推定することができます。
そのため、
スマートフォン=便利なナビゲーション
登山地図=登山計画とルート確認
地形図=地形を読むための基礎資料
コンパス=方位を確認するための道具
というように、それぞれの役割を理解して使い分けるのがおすすめです。
地図とコンパスをセットで使おう
地形図を使いこなすなら、ぜひ覚えておきたいのがコンパスです。
地図だけを見ていても、実際に自分がどちらを向いているのかが分からなければ、現在地の確認は難しくなります。
そこでコンパスを使って地図の向きを実際の地形と合わせる「整置」を行います。
地図を実際の地形と同じ向きに合わせることで、
「右手側にある尾根が地図のどの尾根なのか」
「正面に見えるピークはどこなのか」
「次の分岐はどちらの方向なのか」
といったことを確認しやすくなります。
さらに、コンパスを使って進行方向を確認したり、目標物の方位を確認したりすることもできます。
登山地図やスマートフォンのGPSに慣れている人でも、地図とコンパスを使った基本的な読図方法を覚えておくと、山での安心感がぐっと高まります。
地図は「道迷いしたとき」だけのものではない
地図というと、「道に迷ったら見るもの」と考えてしまいがち。
でも、地図は迷う前に見るものでもあります。
たとえば、分岐に到着する前に地図を確認しておけば、
「次に右へ曲がる」
「この先で尾根から外れる」
「この分岐を間違えると別の谷へ下りてしまう」
といったことをあらかじめ把握できます。
つまり、地図を見る習慣があれば、「迷ってから現在地を確認する」のではなく、「迷う前に自分がどこにいるのかを確認する」ことができるのです。
おすすめなのは、分岐やピークなどの特徴的な地点を通過するたびに地図を確認すること。
「今ここを通過した」と確認しておけば、その後に道が分からなくなったとしても、最後に確実に確認できた地点から現在地を考えることができます。
地図を持って山へ行こう!
これで、登山地図と地形図の違いや特徴、それぞれのメリット・デメリットが分かりました!
登山地図は、
・登山道
・コースタイム
・山小屋
・水場
・危険箇所
・登山口や交通情報
など、登山者にとって便利な情報が豊富。
一方、地形図は、
・等高線
・尾根
・谷
・標高
・斜面
・水系
など、山そのものの地形を詳しく読み取ることができます。
つまり、
「登山地図は登山を計画するための地図」
「地形図は山の地形を理解するための地図」
と考えると分かりやすいでしょう。
もちろん、登山地図だけでも登山はできますし、地形図だけでも山を歩くことはできます。
でも、両方の特徴を知って使い分けることができれば、山行計画の幅が広がります。
そして、地図読みを覚えると、山登りそのものが少し違って見えてきます。
ただ「登山道を歩く」のではなく、
「この尾根を歩いているんだ」
「この谷の向こうに山頂があるんだ」
「ここから等高線が密になっているから急登が始まるな」
と、地図と実際の景色を照らし合わせながら歩けるようになるからです。
いざ地形図に向き合ってみると、やっぱり難しそう・・・と思うかもしれません。
ですが、最初から完璧に読める必要はありません。
まずは等高線の意味を知る、標高を確認する、尾根と谷を探してみる、実際の登山道と地図を見比べてみるところから始めてみましょう。
地図が読めるようになると、山行計画の立て方も、山での現在地確認も、これまでとは違った楽しみ方ができるようになります。
スマートフォンの地図を活用しながらも、紙の登山地図と地形図、そしてコンパスにも少しずつ慣れていく。
「地図を読める登山者になる」ことは、安全面だけでなく、登山の楽しみを広げることにもつながるのではないでしょうか。
まずは次の山行で、登山地図と地形図を見比べながら、いつも歩いている山の地形をじっくり観察してみたいですね。

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