
山登りをする前に提出する“登山届”。
これまでは任意のイメージが強かった登山届ですが、現在では山域や登山ルートによっては提出が義務付けられているケースもあり、もはや安全登山の基本ともいえる存在になっています。
実際、2025年(令和7年)の全国の山岳遭難は3,122件、遭難者は3,623人にのぼり、遭難者数は統計開始以来最多となりました。死者・行方不明者も332人にのぼっています。登山が身近なレジャーになった一方で、山での事故や遭難は決して他人事ではありません。
いざというときのため、日帰り登山でもできるだけ提出しておきたい登山届ですが、そもそも登山届とは一体どのようなものなのでしょう?
また、どんな情報を書いて、どこへ提出すればいいのでしょうか?
今回は、登山届の書き方の具体例から、提出先、紙での提出方法、オンライン提出まで、現在の登山届事情を詳しく確認してみたいと思います!
登山届とは?提出は必須なの?
“登山届”とは、誰が、どのコースで、どのような装備を持ち、いつ下山するかなどを記入する書類のこと。
“登山計画書”や“入山届”と呼ばれることもあります。
登山届は、登山許可を得るためのものではありません。
万が一事故や遭難が発生した場合に、「誰が」「どこへ」「どのルートで」「いつまでに下山する予定だったのか」を捜索・救助側が把握するための重要な情報です。
登山届が提出されていれば、遭難した可能性のある人物の身元や予定ルートなどを確認する手がかりとなり、捜索範囲を絞り込むためにも役立ちます。
ただし、「登山届は全国どこでも必ず法律上の義務」というわけではありません。
山域や自治体によって、提出が義務になっているところと、努力義務・推奨となっているところがあります。
たとえば長野県では、県内の指定登山道を通行する場合、登山計画書の届出が必要とされています。オンラインでの届出も推奨されており、「コンパス」や「YAMAP」などを利用した提出も可能です。
岐阜県でも、北アルプス地区や御嶽山、焼岳、白山などでは登山届が義務化されており、条例違反には過料の規定があります。
また、群馬県の谷川岳でも、毎年3月1日から11月30日までの間、危険地区へ立ち入る場合は登山届または登山計画書の提出が義務付けられています。
富山県でも、剱岳および周辺の危険区域について、一定期間の登山届提出が条例で義務付けられています。
つまり現在は、
「登山届は任意だから出さなくてもいい」
と一括りに考えるのは危険です。
登る山によってルールが異なるため、登山前に自治体・警察・山小屋などの公式情報を確認し、義務付けられている場合は必ず提出するようにしましょう。
そして、義務ではない山域であっても、万が一の遭難に備えて登山届を提出することをおすすめします。
登山届は誰に提出するの?
登山届の提出先や提出方法は、山域によって異なります。
昔ながらの方法としてよく知られているのが、登山口などに設置されている登山届ポストへの投函です。

登山口のポストに専用用紙を投函する場合は、事前に用紙を用意しておくとスムーズです。
山によっては登山口や駅、登山センターなどに用紙が設置されていることもあります。
ただし、「登山口のポストに入れれば全国どこでもOK」というわけではありません。
自治体によっては、警察署、交番、登山口の管理所などが提出先となっている場合があります。
また、オンラインでの提出を推奨している自治体もあります。
たとえば長野県は、指定登山道の登山計画書について、個人情報の保護と迅速な救助活動につなげるためオンラインによる届出を推奨しています。
そして、紙の登山届を提出する場合でも、忘れてはいけないのが家族や友人などへの登山計画の共有です。
登山届を警察などに提出したからといって、家族がその内容を自動的に把握できるとは限りません。
そこで、
・どの山に登るのか
・どの登山口から入るのか
・どのルートを歩くのか
・誰と登るのか
・何時ごろ下山予定なのか
・下山予定を過ぎた場合はどうするのか
といった情報を、家族や友人などにも伝えておきます。
「登山届を提出したから大丈夫」ではなく、登山届+家族・友人への共有まで行うことで、万が一の際の情報伝達がよりスムーズになります。
なお、オンラインの登山届サービスを利用すると、家族や友人などの緊急連絡先へ登山計画を共有できる場合もあります。
登山届にはどんな情報を記入する?具体的な書き方は?

登山届は、遭難が発生した場合など、捜索や救助の重要な手がかりになります。
そのため、捜索する側が「この人は、どこを歩く予定だったのか?」をできるだけ具体的にイメージできる情報を書いておくことが大切です。
具体的な書き方についてですが、全国共通の一つの様式が決められているわけではありません。
実際、岐阜県警も登山届について「定まった様式はありません」と案内しており、参考用のWord・Excel様式を公開しています。
登山口に備え付けてある用紙に記入しても、自治体や警察が公開しているフォーマットを使用してもOK。
オンラインの登山届サービスを利用する方法もあります。
ネット上でこのようなPDFをダウンロードして使用することもできます。

引用元:“登山計画書(登山届)”ワンダーフォーゲル編集部ブログより(http://www.yamakei.co.jp/wandervogel-editors/wandarvogel201802tozankeikakusho.pdf)
では、実際にどんな情報を書けばいいのでしょうか?
登山届に記入しておきたい基本的な情報として、以下を確認しておきましょう。
登山届に記入する情報①団体名
山岳会やサークル、学校、職場などの団体で登山する場合は団体名を記入します。
個人での登山なら空欄でも問題ありません。
団体登山の場合は、団体の代表者やリーダーが誰なのかも分かるようにしておくと、緊急時の連絡がスムーズです。
登山届に記入する情報②目的の山域・山名
「北アルプス・槍ヶ岳」「八ヶ岳・赤岳」「丹沢・塔ノ岳」など、山域と山の名前を具体的に記入します。
山頂だけでなく、縦走する場合は縦走する山々をできるだけ具体的に記入します。
「北アルプス」だけでは広すぎるので、可能であれば「上高地→槍沢→槍ヶ岳→穂高岳→涸沢→上高地」のように、実際の行程がイメージできる形にしておくと安心です。
登山届に記入する情報③入山日・下山日・下山予定時刻 いつ入山し、いつ下山する予定なのかを記入します。
特に重要なのが下山予定時刻です。
たとえば「8月23日入山、8月23日下山」だけではなく、
「8月23日 16:00頃、登山口へ下山予定」
のように、予定時刻まで具体的に記入しておきましょう。
数日にわたる縦走では、各日の宿泊場所や行程も記入します。
悪天候や体調不良などに備えて余裕のある日程を設定し、必要であれば予備日も考えておきます。
登山届に記入する情報④登山口・下山口・交通手段 どこから入山し、どこへ下山するのかを明確にします。
同じ登山口へ戻ってくるピストンなのか、別の登山口へ抜ける縦走なのかによって、捜索の範囲も大きく変わります。
マイカーの場合は駐車場所や車種・ナンバーなどを記入できる欄があれば記入しておくと、捜索時の手がかりになる場合があります。
公共交通機関を利用する場合も、駅やバス停などの情報を記入しておくとよいでしょう。
登山届に記入する情報⑤ルート・行程 「どのルートを歩く予定なのか」をできるだけ具体的に記入します。
出発地点、分岐、山頂、山小屋、避難小屋、峠など、主要なポイントを時系列で記入します。
特に、
登山口 → 分岐 → 山頂 → 山小屋 → 下山口
というように、ルートの流れが分かるようにしておくことが重要です。
登山届に記入する情報⑥ルートマップ
地形図や登山地図の該当範囲をコピーして貼り付けたり、地図上に予定ルートを書き込んだりします。
現在はオンラインの登山計画サービスを使えば、地図上でルートを設定して、そのまま登山計画を作成できるサービスもあります。
紙の登山届を使う場合でも、可能であれば「どの尾根を通るのか」「どの沢を通るのか」「どの登山道を使うのか」が分かるようにしておきましょう。
登山届に記入する情報⑦参加者
参加するメンバー全員の情報を記入します。
・氏名
・年齢または生年月日
・性別
・住所
・電話番号
・血液型
・緊急連絡先
など、用紙の項目に沿って記入します。
団体の場合は、チーフリーダー(CL)やサブリーダー(SL)を決めておき、誰がリーダーなのか分かるようにしておくとよいでしょう。
遭難した際、捜索側にどんな装備を持っているか分かるように、主要な装備を記入します。
・テント
・ツェルト
・シュラフ
・ストーブ・燃料
・食料
・防寒着
・ヘッドランプ
・通信機器
・GPS機器
・衛星電話
・無線機
などです。
すべての装備を細かく書く必要があるかどうかは提出先の様式によりますが、特に生存に関わる装備や通信手段については、記入欄がある場合はしっかり記入しておきましょう。
登山届に記入する情報⑨緊急連絡先
家族や友人など、緊急時に連絡を取れる人の氏名・電話番号・続柄などを記入します。
ここは非常に重要な項目です。
緊急連絡先として登録する人には、あらかじめ「いつ、どの山に行くのか」「何時ごろ帰る予定なのか」を伝えておきましょう。
単に名前と電話番号を書くだけではなく、登山計画そのものを共有しておくと、いざというときに役立ちます。
個人情報を記入することに抵抗がある人もいるかもしれませんが、登山届に記載する情報は、遭難時の本人確認や捜索・救助のために重要です。
ただし、提出先によって必要な情報や取り扱い方法が異なるため、必要以上の個人情報を独自に記入するのではなく、提出先が求めている項目を正確に記入するようにしましょう。
登山届は「予定どおり下山する」までがセット

登山届を提出すると、そこで安心してしまいがちですが、実はもう一つ大切なことがあります。
それが「無事に下山したことを伝える」ことです。
紙の登山届では、下山届や下山報告の仕組みが用意されている山域もあります。
オンラインサービスでは、登山計画の提出だけでなく、下山通知まで一連の流れとして管理できるものもあります。
たとえば「コンパス」では、登山計画を提出した後、下山時に「下山通知」を送る仕組みがあります。
登山計画を共有している家族や友人などにも下山通知が届くため、「無事に下山した」という確認がしやすくなります。
さらにコンパスでは、下山通知が予定どおり行われなかった場合の通知機能も用意されています。
緊急連絡先などに未下山の情報を知らせる仕組みによって、単なる「提出」で終わらず、登山前から下山後までを安全管理の流れとして考えられるようになっています。
登山届を出した後に予定が変わったら?
登山では、予定どおりにいかないことも珍しくありません。
・天候が悪化した
・体調が悪くなった
・登山道が通行止めになった
・予定より早く下山した
・予定より下山が遅れた
・ルートを変更した
など、さまざまなケースが考えられます。
このような場合に重要なのが、提出した登山計画の情報をできるだけ最新の状態にしておくことです。
オンラインサービスでは、提出後の計画変更に対応しているものがあります。
たとえば長野県では、オンラインで提出した登山計画を変更する場合、変更後の計画を改めて提出するよう案内しています。
ただし、すべての自治体で同じルールとは限りません。
「計画を変更したらどうすればいいのか」「下山予定時刻を変更できるのか」「下山届は必要なのか」などは、その山域の最新ルールを確認しましょう。
登山届を提出するときの注意点

登山届は、ただ提出すればいいというものではありません。
「実際の登山内容と登山届の内容が違う」という状態になってしまうと、万が一の際にせっかくの情報を十分に活用できなくなる可能性があります。
特に注意したいのが、以下のポイントです。
・実際に歩くルートを書く
・登山口と下山口を正確に書く
・下山予定時刻を無理のない時間に設定する
・参加者全員の情報を記入する
・緊急連絡先に事前に知らせておく
・ルート変更があったら情報を更新する
・下山したら下山通知・下山報告を忘れない
また、登山届を提出したからといって、遭難を防げるわけではありません。
登山前には、登山届の作成と同時に天気予報、登山道の通行状況、体力・技術に合ったルートかどうか、装備が十分かどうかも確認しておきましょう。
長野県も、登山前には最新のルート状況や天候を確認し、自分や同行者の体力・技量に見合った、ゆとりのある計画を立てるよう呼びかけています。
登山届はインターネットでも提出できる

登山届は、より安全な山行のために必要不可欠なものですが、正直、紙に記入して登山口まで持っていくのを面倒に感じることもありますよね。
ですが、現在はインターネットやスマートフォンから登山届を提出できるサービスが充実しています。
特に便利なのが、山と自然ネットワークの「コンパス」です。
コンパスでは、地図からルートを設定して登山計画を作成したり、登山計画を家族・友人などと共有したりできます。
さらに、登山中のGPSログ、ナビゲーション、気象情報、下山通知などにも対応しており、現在は単なる「オンライン登山届」ではなく、登山計画から登山中、下山後までをサポートする登山サービスへと進化しています。
コンパスでは、登山届を「提出する」だけでなく、「共有する」という考え方を採用しています。
登山計画を家族や友人などの緊急連絡先と共有しておけば、万が一の際に予定していたルートや下山予定時刻などを確認することができます。
また、スマートフォンの「コンパスEX」アプリでは、登山スタートから下山通知までGPSログを記録し、歩いた軌跡を確認することもできます。
そのほか、自治体によっては自治体独自の電子申請サービスを利用して登山計画書を提出できる場合もあります。
長野県では「ながの電子申請サービス」のほか、みなし団体として「コンパス」や「YAMAP」を利用した届出にも対応しています。
つまり、現在の登山届は、
紙に記入して登山口のポストへ投函する
だけではありません。
・登山口の登山届ポスト
・警察署などへの提出
・自治体の電子申請
・オンライン登山届サービス
など、山域によってさまざまな方法があります。
ただし、オンラインサービスならどこでも提出できるとは限りません。 そのサービスが、目的の山域の提出先として認められているかを必ず確認しましょう。
特に登山届の提出が条例などで義務化されている山域では、指定された方法・提出先を確認することが大切です。
日帰り登山でも登山届は必要?
「日帰りだから登山届はいらないよね?」と思っている人もいるかもしれません。
しかし、日帰りか宿泊かは、登山届を出すかどうかを決める唯一の基準ではありません。
日帰り登山でも、道迷いや転倒、滑落、体調不良、悪天候などによって下山できなくなる可能性はあります。
むしろ、日帰り登山は「短時間だから大丈夫」と油断してしまい、下山時刻が遅くなったり、ライトを持っていなかったり、食料や防寒具が不足したりするケースも考えられます。
そのため、日帰りであっても、
「どこへ行って、どのルートを歩いて、何時ごろ帰る予定なのか」
を家族や友人に伝えておくことが重要です。
そして、可能であれば登山届も提出しておきましょう。
登山届は「安全登山の設計図」

登山届というと、「遭難したときに警察に見せる書類」というイメージが強いかもしれません。
でも、実際にはそれだけではありません。
登山届を作るためには、
「どのルートを歩くのか」
「何時に出発するのか」
「何時ごろ下山するのか」
「天候は大丈夫か」
「自分の体力で歩けるコースなのか」
「必要な装備は揃っているか」
などを確認する必要があります。
つまり、登山届を作成すること自体が、登山計画を見直す機会になるのです。
山岳遭難は、経験豊富な登山者でも起こり得ます。
2025年の山岳遭難者数が3,623人に達したことからも、「自分だけは大丈夫」と考えず、万が一に備えておくことの重要性が分かります。
登山届は、遭難を防ぐ魔法の道具ではありません。
しかし、
「登山前に計画を見直す」
「家族や友人に予定を知らせる」
「警察や自治体などに自分の計画を伝える」
「万が一のときに捜索の手がかりを残す」
という意味では、安全登山のための非常に重要な準備のひとつです。
登山届の提出は、「面倒だから後回し」ではなく、登山靴を履く前に済ませておきたい安全対策として習慣にしておきたいですね。
紙でもオンラインでも、自分が登る山に合った方法で登山届を提出し、家族や友人にも登山計画を共有しておく。
そして、無事に下山したら「下山したよ!」と必ず知らせる。
この一連の流れまでを登山の準備として考えておけば、より安心して山歩きを楽しめるはずです。
⇒オンラインで登山届や下山届ができる“コンパス”とは?山行計画をシェアできてポイントも貯まる!
※登山届の提出義務・提出先・提出方法は、山域や自治体、季節によって異なります。特に条例で届出が義務付けられている山域では、最新の自治体・警察等の公式情報を確認してください。

コメントはこちら